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zoom RSS F39)宇宙開発と出会って50年(2/3) 大石晃

<<   作成日時 : 2014/11/16 20:30   >>

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宇宙開発と出会って“50年” (トピックス あれこれ)(2/3)
         大石 晃 (2014/8/1 記)

〔2〕 圧倒的な格差のある米国との協調と競争の現実
@ 宇宙開発関係予算の日米比較

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                        図12 宇宙開発関係予算「日米比較」   

1969年度から最近の2014年度までの日米の宇宙予算を比較する(US$の邦貨への換算は当時の為替レートを用いる)。’69年はNASDAが発足して日本の宇宙開発が本格的にスタートを切った年であり、一方米国ではアポロ11号が初めて月着陸を果たした年になる。この年、NASA予算は既にピークを越えて下り坂【注16】になっていたが、それでもわが国全省庁の宇宙予算総額より桁違いに大きく、ようやく2000年代になってその差が5:1程度に縮まったところである。アポロ以後のNASAは、主に火星、金星などの深宇宙探査、スペースシャトルの開発・運航を経て現在進行中の国際宇宙ステーションプログラムなどに原資を投下してきた。今後については、’60年代のソ連に代わり急速に抬頭してきた中国の挑戦(月資源も視界に入れた月面有人滞在計画など)への政治対策等も考える必要が出てくる等で視界は不良である。

ただし、日本企業の宇宙事業進出にとって圧倒的に影響力の大きいのはNASAではなく、DOD(米国・国防総省)の行っている宇宙開発である。予算額の詳細は未確認だが、毎年NASA予算と同額以上の予算を計上して、ロケットの開発・改良、偵察衛星、早期警戒衛星、また陸・海・空それぞれの軍事通信衛星や軍用気象衛星ならびにカーナビでお馴染みのGPS測位衛星システムなどいずれも実用に直結した衛星開発と多数の衛星調達を継続的に行っている。米国企業はこのDODの契約工事で初期開発コストを回収した上で、世界の商用市場や官公市場に安値攻勢を仕掛けて売り込みを図っているのが実態である。

A 『包括通商・競争力強化法 スーパー301条』【注17】 の発動
1970年代初めにNTT、NHKと気象庁からそれぞれ通信衛星(CS)【注18】、放送衛星(BS)、気象衛星(GMS)の打ち上げ計画が公表された。いずれもドライ重量300s超級の実用実験用の静止衛星であり、当時の100s級実験衛星の経験では受け入れて貰えず、残念ながらCS/三菱、BS/東芝、GMS/NECの各々が海外提携企業に発注せざるを得なかった。打上げに関しても当時NASDAが開発していたN-Tロケットの静止衛星打上げ能力はmax130sと力不足で、’77〜’78両年に米国ロケットで米国射場から順次打ち上げるという苦渋を味わった。

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【注16】 最近のNASAの予算統計ではInflation Factorを考慮して2007年平価に換算した各年度予算が併記されており、それによれば’69年予算は約5倍の7兆円に相当する。NASA予算の実質額ピーク値はアポロ計画の開発最盛期である’65年の(33,514M$⇒)12兆650億円であり、以後大きく減少して回復することはない。
【注17】 スーパー301条(S 301条)とは1988年に施行された米国内法の「包括通商・競争力強化法」の対外制裁に関する条項の一つ。’74年の「通商法」の301条における制裁措置を強化し、不公正な貿易慣行や輸入障壁がある、もしくはあると疑われる国を特定して「優先交渉国」とし、米国通商代表部(USTR) に交渉させて改善を要求し、3年以内に改善されない場合は報復として任意の輸入品目について関税引き上げを実施するという内容である。それら貿易慣行等を確実に排除させる為の報復行動を含む非常に強力な条項である。
【注18】 〔略称解説〕 通信衛星CS:Communications Satellite、放送衛星BS:Broadcasting Satellite、静止気象衛星GMS:Geostationary Meteorological Satellite
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早期国産化に意欲的だったNTTは、’80年代、CSの2号機、3号機と逐次国産化率の向上を目指した。’88年の春と秋に国産H-Tロケットで順次打ち上げたCS-3a、CS-3bは一回り大きい550s(ドライ重量)のわが国初の純国産・実用衛星としてデビューすることになる。設計寿命を当時の国際規準の7年としたこと、高効率GaAs太陽電池を世界に先駆けて実用化し、またCFRPやKFRP(ケブラー繊維)等の複合材料をフル活用して軽量化を図るなどで、当時の米国最新のSBS衛星やSATCOM衛星にも性能面で匹敵する国際水準の衛星を実現した。

NTTはそれに先立って80年代半ばから、より先進的な次期通信衛星CS-4a/CS-4b計画の準備を進めていたが、いざ発注という矢先の1989年5月に、米国は『包括通商・競争力強化法 スーパー301条』を発動して、日本を「人工衛星、スーパーコンピュータ、林産物」について不公正な貿易慣行や輸入障壁がある市場開放優先交渉国に認定した。これに基づく日米協議の結果、’90(平2)年6月の日米合意で非研究開発型衛星(実用衛星)は公開、透明かつ内外無差別な手続きにより調達されることが決まり、コスト面で敵わない日本企業は、以後国内の実用衛星市場から事実上締め出されることとなる。当時の政治判断で、衛星をスケープゴートにしてスパコンと林産物をリストから外し、併せて車、テレビ等の対米輸出を守った。(’14年6月末時点で日本の衛星通信・放送事業者の保有する19機の衛星の内18機が米国製である。)協定のもう一つの問題点は、合意された手続きには終了期限がないことと、対象も米側意向で都度任意の衛星を指摘するだけで即束縛できる不平等取り決めとなっている点である。
のちの調べで、S 301条『発動までの経緯』について次のことが判明した。戦略的である!
◆ ’83年夏に、NTTの衛星国産化の動きを知った米業界が政府に働きかけて、これを受けた米政府から日本政府に対して米国製の通信衛星購入の要請がなされた。
◆ ’83年暮 CS 3号機(前述:3a/3b)の商戦で、純国産をアピールした三菱電機が受注した。(世界一の通信衛星メーカの米HAC(ヒューズエアクラフト社)/ NEC連合チームが敗退。)
◆ ’84年 米上院外交委員会で日本政府の宇宙国産化方針を批判する意見が続出。
◆ ’85年 中曽根/レーガン会談で「衛星調達等の門戸開放に関する協議」について合意。協議分野を、電気通信、エレクトロニクス、林産物、医療機器の4分野に設定する。
◆ ’86年 電気通信、エレクトロニクスの分野で衛星調達問題を協議することを確認。
◆ ’88年 米国内「通商法」301条の制裁措置を強化したS 301条(参照:前頁脚注)を施行。
◆ ’89年5月 S 301条に基づき、人工衛星、スーパーコンピュータ、林産物について日本を市場開放優先交渉国に認定。

B 情報収集衛星(IGS:Information Gathering Satellite)
1998(平10)年8月31日、北朝鮮は中距離弾道ミサイルの「テポドン1号」を東方に向けて発射し、津軽海峡付近から日本列島を越えるコースを飛翔した。この発射実験を受けて即刻、政府は情報収集衛星(いわゆる偵察衛星)の導入を決定した。
偶々(たまたま)テポドン発射の6日前に、三菱電機の谷口社長が自民党の防衛特別部会に呼ばれて「多目的情報収集衛星」をテーマに講演した矢先であり、早速9月の自民党ヒアリングで公式に同衛星に関する説明を行った。これを皮切りに政府・与党での検討が重ねられ、12月の閣議で当該衛星の導入および次年度からの開発着手が異例の速さで決められた。

決定を急いだ背景として、長引けば困難が生ずる次に述べる事情があった。
◆ 当時、宇宙基本法【注19】は制定されておらず、わが国の宇宙開発や利用の適用範囲に関しては、昭和44年国会決議【注20】の「平和目的に限る」との文言に縛られて解釈上からは「非軍事目的」に限定されており、長引けば国会論争の種になる懸念があった。
◆ 米政府は軍事情報に関しては米国による一元的一括管理が原則であり、日本の偵察衛星等の導入には従来消極的で、時間がかかれば米側から牽制されることも考えられた。
◆ 偵察衛星導入と決まった場合には米国企業の厳しい売り込み攻勢が予測され、状況次第で(S 301条に基づく)’90年日米合意による調達手続きが蒸し返されかねなかった。

’98年度中に、光学センサにより精細な画像を撮影する「光学衛星」と、夜間や曇天でも画像を取得出来る合成開口レーダ(SAR:Synthetic Aperture Radar)搭載の「レーダ衛星」の2機をぺアとして常時2組4機体制による監視を行う計画が固まった。IGSの管制・運用を含めた全体を内閣官房・内閣情報調査室が管轄する体制が整うと、間髪を入れず翌’99年度から衛星4機および追跡管制施設や受信処理システム等の開発に着手した(三菱電機が受託)。
2003年3月28日に、H-UAの5号機で最初の情報収集衛星「光学1号」と「レーダ1号」の2機の衛星が同時に打ち上げられた。これを含めて’03年〜’13年の間に10機が打上げ済である。内5機が運用を終え、現在「光学衛星」3機と「レーダ衛星」2機が軌道上で観測監視業務を遂行している。今後も平均して年1機の頻度で打ち上げられる予定である。(軌道条件や観測性能等の詳細仕様は公表されていないが、衛星の設計寿命は5年、最新モデルの光学センサの空間分解能は約40p、SARの分解能は約1m程度と見做されている。)

上述の迅速な政府の対応もあり、米国企業の圧力も受けず、また助けを借りることもなく順調に進捗したが、比較的短期間でIGSシステムの構築に対応できたのは、1978(昭53)年頃からの様々な地球観測衛星【注21】における研究・開発の成果や運用経験の賜物である。

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【注19】 平成20(2008)年5月28日に公布された日本の宇宙開発・利用の基本的枠組みを定めるための法律。「国の安全保障に資する宇宙開発利用の推進」「宇宙産業の技術力と国際競争力の強化」が初めて国の方針として明記された。その結果、それまでわが国では「非軍事」に限定していた「平和的目的」の解釈を、国連の宇宙条約における国際規準の解釈である「非侵略」にまで拡げることで、防衛利用に道を開いた。
【注20】 昭和44(1969)年5月9日の衆議院本会議で、「宇宙の開発および利用の基本に関する決議案」が可決され、宇宙開発や利用の適用範囲について、「宇宙に打ち上げられる物体及びその打上げ用ロケットの開発及び利用は、平和の目的に限り」と決議された。これが足かせになり、のちに欧、中の後塵を拝する遠因となる。
【注21】 NASDA/JAXAがこれまで打ち上げた地球観測衛星は下掲の通り。()内は打上げ年を記す。
海洋観測衛星1号・1号b「もも1号・1号b」(’87・’90)、地球資源衛星1号「ふよう1号」(’92)、
地球観測プラットフォーム技術衛星「みどり」(’96)、環境観測技術衛星「みどりU」(’02)、
陸域観測技術衛星「だいち」(’06)、温室効果ガス観測技術衛星「いぶき」(’09)、
第一期水循環観測衛星「しずく」(’12)、陸域観測技術衛星2号「だいち2号」(’14)
これら衛星はいずれも南北極の上空500〜900kmの円軌道を回り、目的に応じた観測センサを用いてデータを取得する。地球上の同一地点を同時刻に通過して観測できる太陽同期準回帰軌道を利用する場合が多い。
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なかでも特筆すべきは地球資源衛星の「ふよう1号」(JERS-1:’92打上げ済)【注22】である。
高精度観測のため能動型電波センサのSAR(上掲)及び可視光から短波長赤外域までの地表からの反射光を観測する光学センサ(OPS)を搭載しており、のちのIGSの基本形となる。
衛星本体に関しては、H-Tロケットで高度570kmの太陽同期準回帰軌道に打ち上げられる(当時としては)大型の1.4tonの衛星で、衛星の姿勢安定はXYZ各軸毎にリアクションホイールの回転トルクで制御するゼロモーメンタム三軸姿勢制御方式を採用した。新規開発の姿勢・軌道制御用の搭載計算機による純デジタル高精度制御を初めて実用化して、以後の三軸制御衛星の規準型となった。なお、三菱が主契約者として衛星全系の開発をNASDAから請け負った。また観測機器についてはNECが上記OPSとSARの送受信機を、三菱がSARシステム及びSAR大型展開アンテナ(12mX2.5m)をそれぞれJAROS(通産省管轄の財団法人)から開発受託した。

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                   図13「ふよう1号」(重量1.4ton/電力1.6kw/寿命2年)

「ふよう1号」以後も、光学センサに関しては「みどり」(ADEOS:’96打上げ)に搭載した高性能可視近赤外放射計(AVNIR)や「だいち」(ALOS:’06打上げ)搭載の高性能可視近赤外放射計2型(AVNIR-2)、またSARに関しても「だいち」に搭載したフェーズドアレイ方式Lバンド合成開口レーダ(PALSAR)や最新の「だいち2号」(ALOS-2:’14打上げ)に搭載したPALSARの性能向上型であるLバンド地表可視化レーダ「PALSAR-2」・・・と云うふうに継続的に改良や性能向上を図っており、その成果は適宜IGSにも反映されている。

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                   図14 「だいち2号」(重量2.2ton/電力5kw/寿命5年)

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【注22】 地球資源衛星の原型は通産省が’79年に研究に着手した日本版資源探査衛星であるが、科技庁が通産省の宇宙分野への進出に反発、その後約4年間の省庁間バトルに発展した。’84年に「NASDAが衛星を取り纏め、通産省が2種の観測機器(SARと光学センサ)を分担して共同開発する」ことで合意して決着した。
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リンク:(3/3)へ
http://hamato.at.webry.info/201411/article_4.html


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